
本当ならもっともっと早く来るべきだったカラブリア。
ゴメンね、こんなに遅くなってしまったよ…と、心の中で詫びながら。
なぜならば……
ぶ厚い原本からイタリアの所だけちぎり取り、
ヨレヨレなるまで見たトーマスクックの時刻表と当時の旅人のバイブル、地球の歩き方。
この2つが大事な相方だった1人旅の箱入りムスメ(!!)を心配して
せめて伊国で連絡が取れる日本人を…と、青学のコーラス部だった父が、
部の先生の生徒の生徒の生徒…という、芥川龍之介も真っ青な蜘蛛の糸のような縁を辿り、
紹介してもらったのが、フィレンツェで声楽を習っていたK子さんだった。
蜘蛛の糸はまだ伸びる。
彼女の友人が、最近空いた部屋の借り手を捜しているからどぅ?と声をかけられたのだ。
何かと便が良いフィレンツェで「暮らしてみる」という魅力的な案に飛びついたアタシ。
それが同じく声楽を学ぶ部屋主のカラブレーゼ、アンナとの出会いだった。
数年続いた手紙もいつしか途絶え、今、アンナが何処でどうやってるのかわからない。
がしかし、ブルーグレーの大きな目、豊かな黒髪…
すなわち、とても美人で寂しがり屋だった彼女の事はよぉく覚えている。
初めて挨拶を交わした時「あなたは感じの良い人ね」と言われ、
それがたとえイタリア人が気軽に使う常套句だったとしても嬉しかったし、
それまで出会った良くも悪くもイイ加減で開放的なイタリア人とはちょっと違う、
控えめでキッチリとした彼女に、アタシもひと目で好感を持った。
お粗末なアタシのイタ語のせいで、鍵の開け閉めを教わるのに1時間もかかったこと。
彼女の愛猫が、モップのような尻尾の黒猫、ミケリーノだったこと。
愛車がルパン三世な、古くて赤いチンクエチェントだったこと。
声楽の先生と別れたばかりで、バスの中で突然泣き出し、とても困ったこと。
慰め役だった髭のレオナルドが、その後、恋人に昇格したこと。
2人の邪魔にならぬよう、フィレンツェから行ける街を片っ端から回ったこと。
料理上手な彼女が買ってくるサルシッチャは、いつも真っ赤なピッカンテだったこと。
それが故郷の味と知り、以来、アタシも大好物になったこと。
日曜の午後には、近所に住むアンナの姉夫婦や、ピサのレオナルドの実家で卓を囲んだこと。
2日前の夕食さえ覚えてないのに、長年ひっそり閉じていた思い出の小箱から、
マジシャンのトランプの如く次々と思い出が飛び出してくる。
それはあまりにも色鮮やかで、当惑するほどに、涙ぐむほどに、たくさん、いっぱい。
半月ちょっとの滞在だったが(その後の旅でまた数週間お世話になる…(^^ゞ
旅するだけではわからないイタリア人の日常生活の“いろは”を、たっくさん知り得た。
短くても濃い、多分本当に、得難い経験をしたのだと改めて思う。
早くカラブリアに遊びに来なさい!
時々やって来たアンナのお母さんは、帰り際、いつもそう言っては抱きしめてくれ、
その度、大きくあったかい胸の中でオイオイ泣いては別れを惜しんだものだ。
それなのに…こんなに年月が経ってやっと行くなんて、アタシってば相当ヒドイ奴である。
でも…やっと来たのね…と、2人共許してくれるだろう。きっと。
そうして訪れた南の地、カラブリアは、
同じ緑でも、同じ赤でも、同じ空でも、同じ海でも、
北部はもちろん、中部イタリアともシチリアとも違う美しさと豊かさを見せてくれた。
アンナの微笑みのように。マンマの温もりのように。
と…、ノスタルジックな思い出からスタートするカラブリアの旅@備忘録。
今回も恐ろしくスロー更新になると思いますが(!!!)どうぞお付き合いください。